リモートワークはサボらず運用できるのか 全員フルリモートの会社が工夫していること

リモートワークはサボらず運用できるのか 全員フルリモートの会社が工夫していること

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、大企業の中には従業員の在宅勤務に踏み切る会社も出てきました。副業・兼業人材の導入を考えている経営者の中には、リモートワークの上手な活用方法に悩む人が少なくありません。「本当にサボる人はいないのか」、「急な会議にはどう対応したらいいのか」といったハードルがあるからです。大都市圏で働く人材と地方企業のマッチングサービスを展開するJOINSは創業から2年半、全員がフルリモートワークを続けています。どのようにしてリモートワークを軌道に乗せたのでしょう。地域企業の方にとってヒントになりそうなことをまとめてみました。

急な会議はチャットや電話で打診 「意外とやれる」

一口にリモートワークと言っても(1)完全にリモートワーク(2)原則はオフィスに出社するが、一部でリモートワークする――という二つの形態があります。ここでは(2)に絞ってまとめたいと思います。

「創業するまでリモートワークをしたことがなかったので、最初は不安だらけでした」。JOINSの代表取締役、猪尾愛隆はこう話します。同社では事前に予定されている会議は、一日2、3回の頻度でウェブで行っています。大きな会議室で話し合うよりもお互いの表情がよく分かり、自分の顔も相手に見えるので、大勢の会議でやってしまいがちな居眠りもできません。

では、社内で会った時に「ちょっといい?」などと声をかけて行う急な打ち合わせはどうしているのでしょう。オフィスで同じ空間にいれば、軽い打ち合わせや仕事の進捗状況、困ったことなどを確認できますが、リモートだと難しいのではないかという疑問がわきます。

JOINSでは急な打ち合わせの招集は、Slackと呼ばれるビジネスチャットや電話で対応します。会議に参加できる人をチャットで確認し、5分後にウェブ会議を行うことも少なくありません。また、Slackはチャットを遡って、過去のやりとりを確認できるので、メンバーがクライアントとどのようなやり取りをしたのか、業務の進捗などを確認し、情報量を増やして、会議に臨めるというメリットもあります。メンバーにとっても、他の担当が今、どのような懸案を抱えているのかを把握することができます。

リモートは“素の状態”をつかみにくい

とはいえ、リモートワークで把握が難しいこともあります。チャットや電話、ウェブ会議だけだと相手の“素の状態”をつかみにくいのです。私にも経験がありますが、仕事が失敗して落ち込んでいたり、たくさんの仕事を抱えて焦っていても、会議の場では頑張っている姿を見せてしまいませんか?

同じ空間で働いていると、同僚が肩を落としてトボトボ歩く姿や、隣のデスクで大きなため息をつく姿を見掛けて「何かあったの?」と声をかけて話を聞くこともできます。しかし、リモートワークだとこれができません。メンバーが落ち込んでいるのか、怒っているのかといった“本当の心理状態”をつかみにくいことが、リモートワークの弱点と言えるかもしれません。

では、この弱点をどう克服すればいいのでしょうか。実は日報が鍵になります。日報と言えば「今日どのような業務をしたか」「明日以降行う業務」を書くイメ―ジですが、JOINSでは日報に「困っていること、感じていること」という項目を設けています。それぞれのメンバーが仕事で直面している問題や、仕事に関係ないことなど自分たちの感情を自由に書き込めるようにして、メンバーの今の気持ちを皆が分かるようにしています。Slackにも「困っていること、感じていること」という項目を作っています。

実際、JOINSのメンバーはどんなことを書いているのでしょうか。「確定申告作業が全く進んでいなくて危機感を感じている」、「引っ越しでバタバタして稼働が少なくなってしまった」、「ミーティングで新しいメンバーに会えることが楽しみ」などなど。。。。メンバーの今置かれた状況を知ることは、経営者や上司にとっても、フォローをする上でとても大切です。

猪尾は「あまり感情を表に出さないメンバーが、仕事への充実感や達成感を感じていることが日報で分かり、安心したこともあります」と振り返ります。また、JOINSでは経営者自身も困ったことや、感じていることを書きます。部下だけが日報を書くと、一方的な報告になり、自分の感情をさらけ出しにくいですが、上司も感情を吐露することで、部下もストレートな気持ちを表現しやすくなります。

JOINSのエンジニアの一人も日報の大切さを指摘します。「日ごろから顔を合わせているわけではないので、日々の報告をslackやメールでやりとりしないと、仕事の進捗状況はわかりません。数週間前に頼んでいた仕事がある日突然、成果物として出てきても、求める域に達しておらず、とはいえ今から何が足りないかを相手に伝えるより自分でやった方が早い、という状況になるとお互い時間の無駄が生じてしまう。リアルの場で毎日会っていれば『あれ、どうなっている?』と聞けますが、リモートワークだとお互いの仕事の進捗状況が見えません。だからその部分を日報でカバーすることが重要と考えています」と話します。

時給制で自己申告する代わりに、契約は短期

企業側が「リモートワークはハードルが高い」と考える最も大きな理由に「働く人がサボり、報酬だけ持って行かれるのではないか」という不安があるかと思います。営業職ならば、契約件数など成果が目に見える形で分かります。しかし、管理部門など成果が形として分かりにくい職種もあります。

JOINSは時給制をとっています。メンバーは稼働時間を自己申告して、報酬を得ます。一方で、会社側は成果物を受け取らず、時給だけ支払ってしまうことがないように、最短1カ月で雇用契約を解消できるようにしています。メンバーは「良い仕事をしなければ、いつでも解約される」という緊張感があるため、サボりにくさが醸成されています。

実は、JOINS代表の猪尾自身も兼業をしており「雇用される側」の立場で働いています。猪尾は長野県白馬村のスキー場運営会社、八方尾根開発で営業やプロモーションを担当しています。兼業先は時給制で自己申告して報酬を得ています。猪尾は「自分の仕事が報酬に見合ったものでなければ、解約されてしまうという緊張感が常にあるため、水増し請求やサボるといった動機は減ります」と説明します。

このような報酬の払い方を社員全員に対応するのは難しいかと思いますが、テレワークに注目が集まるこの機会に、テレワークで副業や兼業で働く都市部の人材を雇い、このような契約で試しに一緒に働いてみてもらうのはどうでしょうか。

同じ空間に長時間いるから、信頼関係がつくれるわけではない

仕事をする上で、最も大切になることの一つとして相手との信頼関係があります。信頼しているから仕事を任せられるし、引き受けることができる。一緒に仕事をして日が浅い人に「ここまで突っ込んでいいのかな?」と躊躇し、深い議論を避けた経験は誰もがあると思います。

猪尾は「同じ空間に長い時間いるから深い信頼関係を築ける、というわけではないと思っています。これまでお互いが何を話してきたかということのほうが大きい」と言い切ります。これは「自分が『何も知らない人』と思われるリスクをとってでも、大切だと思うことをぶつけられるチームであるか」ということにつながります。

このような関係をつくるには、自分自身を深く知り、チームにさらけ出せる「心理的安全性」を高める必要があります。JOINSでは心理的安全性を高めるプログラムを行っていますが、このプログラムの話は次の機会に、詳しく書きたいと思います。

相手やチームへの信頼を深める一瞬というのは、自分が仕事をしていく上でとても心地が良いものです。JOINSの営業担当のメンバーは「初めてクライアントの方と1人で面談した時や、他のクライアントの方への仕事も含めて、自分自身が立て込んでいる時に、特にそのことをメンバーに伝えていませんでしたが、『困っていることないかなー?』という電話をもらったこと。ちょっとした気遣いやサインを見落とさずにコミュニケーションを取ることが大事なのだと思いました」と、信頼を深めた時のことを振り返ります。

たまにはリアルの場で雑談もしよう

対面で話し合うリアルの場の活用はどうしているのでしょうか。ウェブ会議ではどうしても雑談しにくい面もあります。猪尾は「ウェブ会議は、議題がある会議には向いていますが、会社のビジョンを考えるなどの抽象度の高いこと、雑談などには向いていません。時間も1時間半から2時間が限度だと思っています」と話します。

JOINSでは、3カ月から半年に一度、2泊3日の合宿を開いています。合宿では会社のビジョンやミッションを考えたり、プライベートの話題などで雑談をすることで、さらにお互いを良く知る場にしています。

私、国分も2月からJOINSのオウンドメディア担当になり、リモートで自宅からウェブ会議に参加した時に、会議室で行う顔合わせよりもずっとリラックスして、自己紹介することができました。シンガポールやエストニアから参加しているメンバーもいて、距離は離れているのに、相手を身近に感じることができました。

新聞社出身でライターの私は、仕事柄、現場取材や対面のインタビューといった仕事がほとんどで、リモートワークで働くのは今回が初めてです。まだウェブ会議やビジネスチャットの使い方も慣れていませんが、新しい発見を重ねて、気付いたことを発信していきたいと思っています。

投稿者プロフィール

国分瑠衣子
国分瑠衣子
北海道生まれ。北海道新聞社、業界紙の記者を経てライターとして独立。経済・法律メディアを中心に取材、執筆。趣味は日本酒とランニング。激辛料理が大好物。