ペーパーレス化で年100時間の業務時間を削減 製造業の秘策とは 

会社の業務効率化を進めたい。でもどこから手をつければいいか分からず、悩んでいませんか。埼玉県小川町のセキネシール工業株式会社は、副業プロ人材を活用しペーパーレス化など業務効率化に成功しました。取締役の関根俊直さんと、営業課係長の大塚敦史さんにどう改革を進めたのかを聞きました。

「デジタル化を進めたい」3代目の挑戦

セキネシール工業株式会社がある埼玉県小川町は県中部に位置し、人口約2万8000人。小川町は和紙のまちとして知られ、同社は伝統的な紙すきの技術を応用して、断熱シートや遮熱シートを製造しています。主力は、自動車の部品と部品の間を液漏れしないようにする特殊機能紙「ガスケット」です。従業員は約50人です。

勤怠システム導入とペーパーレス化を進めたい

セキネシール工業株式会社取締役の関根俊直さん(右)と、営業課係長の大塚敦史さん

2020年1月、3代目の関根さんが家業を継ぐために入社。関根氏は社内のデジタル化を進めるためIT推進室を立ち上げ、営業担当者が外でも作業できるようノートパソコンを導入するなど改革を進めています。

関根さんは見積書などのペーパーレス化や、勤怠管理システムの導入を考えていました。でも、従業員は担当業務で忙しく、デジタル化に関する専門の知識を持つ人も少なかったことから副業プロ人材を募集しました。

実は関根さんは、大手求人サービス会社で採用コンサルタントの職務経験があります。人事のプロとして採用面談は慣れていますが、「副業プロ人材がどれぐらい仕事をやってくれるのか、最初は不安でした」と振り返ります。

副業人材と契約 決め手になった意外な一言

複数の応募の中から2021年3月、外資系コンサルティングファームに勤める都内在住の男性、Fさんと契約しました。Fさんは複数の中小企業で副業をしていて、デジタルツールの導入やWebページの作成など幅広い領域で活躍しています。

Fさんと契約した決め手は何だったのでしょうか。

関根さん

言語化は難しいのですが、いい意味で「俺、なんでもできますよ感」がなく謙虚な方だと思いました。「会社の支援をすることで自分も成長できます」と言ってくれて、ともに成長できると感じました。

膨大な紙のファイル、転記ミスも

副業プロ人材Fさんが進めた主な改革
  • 紙の見積書のデータベース化
  • 毎月作成する報告書の効率化
  • 勤怠管理システムを導入、社員約50人分のアドレス作成とアカウント設定

Fさんがまず着手したのは紙の見積書のデータベース化です。これまでは見積依頼があると、営業担当者がエクセルに入力した上で見積書のフォーマットに転記していました。さらに印刷した紙を上司が印鑑を押した上でファイリングしていました。会社の一角には膨大な紙のファイルが保管されている状態でした。

大塚さん

営業では分厚いファイルの中から、コピーをとり外に持って行き、手書きをする。エクセルのファイルの中にシートがたくさんあり、開くのもかなり遅くストレスになっていました…

書類作成時間が減り、リードタイムも短縮

Fさんは課題を聞き取りながら、約4カ月かけてデータベース化を進めました。今はフォーマットを使って入力し、電子印を使えるようになったので、作業時間や転記ミスが減りました。

大塚さん

これまで30分以上かかっていた仕事が、1回あたり3、4分でできるようになりました。見積書作成の時間が減ったことでリードタイムの短縮にもつながりました!

報告書作成は7時間→30分に

Fさんは報告書作成の効率化も進めます。これまで営業課では月1回の経営会議で報告するために前月の実績や、来月の予測をエクセルで品番ごとに手入力していました。作業は2日間にわたり7時間ほどかけて行い、担当者の負担になっていたのです。

Excelによる自動化機能を導入したことで7時間かけていた作業が30分に短縮されました。

副業プロ人材と進めたデジタル化によって、年間100時間ほど短縮できたといいます。セキネシールではバックオフィス、勤怠管理ツールの導入も完了しています。

Fさんとの業務はオンラインで進めました。ビジネスチャットツール「slack(スラック)」でやり取りし、隔週でオンライン会議で進捗を確認しました。

「副業人材にも成長を感じ、楽しく働いてもらいたい」

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「Fさんは同じゴールを目指すチームのメンバーという感じで、仕事を進めやすかった」と話す大塚さん

「Fさんは社員でも敬遠する煩雑な業務も進んで担当してくれて、いい刺激を受けました」と、関根さんや大塚さんが驚いたことがあります。Googleカレンダーの導入や勤怠管理システムを導入する時のこと。Fさんは社員約50人分のアドレス作成やアカウント設定しました。「こんなことまでやってくれるとは想像もしていませんでした」(関根さん)

一方で、関根さんはFさんと仕事をする上で意識したことがあるといいます。それはFさんにも成長を感じて楽しく働いてもらうこと。

関根さん

私以外の社員と直接やりとりできるよう接点を増やしました。ウェブ会議でも「もともとFさんがやりたかったことはできていますか?」と聞き、Fさんの仕事の満足度を確かめながら業務を進めました。

「副業人材の面談を進めていた時、あるフリーランスの人材の方が『スキルの切り売りをしている感覚がある』と漏らしたんです。その言葉が印象に残り、Fさんにはスキルの提供だけという気持ちにならないよう、互いに成長しながら楽しんで働いてもらいたいと思いました 」(関根さん)

「業務効率化できたことで、コア業務に集中できる」

営業部門で成果が出たことで、他の部署からも生産管理のデジタル化をFさんにお願いしたいという声が上がっています。また、工場内のスマートファクトリー化も計画中。小川町の夏は暑いため、工場内の温度や湿度をアウトプットし安全管理に役立てる仕組みを考えています。

デジタル化と並行して進めるのが、人事評価制度の見直しです。「今は個人や部署の目標は定めますが、定性的な評価が多い。定量的な評価制度を加えることで、従業員が目標を定めやすい環境を整えたい」(関根さん)

経営改革を進めるセキネシール。関根さんは「業務効率化を進めることは、コア業務に集中できるようになるので、今後さらに新製品の開発や拡販につなげていきたいです」と話しています。


投稿者プロフィール

国分瑠衣子
国分瑠衣子
北海道生まれ。北海道新聞社、業界紙の記者を経てライターとして独立。経済・法律メディアを中心に取材、執筆。趣味は日本酒とランニング。激辛料理が大好物。