副業の確定申告、どこまでが経費になるの? 専門家に聞いてみた

新年を迎え、確定申告の時期が近づいてきました。2022年提出分(令和3年分)の確定申告期間は、2022年(令和4年)2月16日から2022年(令和4年)3月15日までです。本業がリモートワークに切り替わったことなどをきっかけに副業を始める人が増え、初めての確定申告という人も多いのではないでしょうか。会社員の方の場合、納税は会社が行ってくれているため、あまり考えたことがなかったと思います。今回は会社員で副業をしている人の確定申告について、経費の考え方や申告の方法を菅野浩司税理士に聞きました。


副業所得が年間20万円を超えると確定申告が必要

person holding pencil near laptop computer

 確定申告とは1年間の所得にかかる税金を自分で計算し、翌年の決められた期日までにその税金を自分で納付することをいいます。税金の還付を受ける手続きのことを還付申告といいます。

 会社員で確定申告しなければならない人は大きく分けて6つのケースがあります。


会社員で確定申告しなければならないケース6選

  • ①副収入が年間で20万円を超える人
  • ②給与が2000万円以上の人
  • ③不動産(土地、建物)を売却した人
  • ④2カ所以上から給与をもらっている人
  • ⑤年金を受け取った人
  • ⑥贈与を受けた人

ここでは①の副業の確定申告の方法について見ていきます。

副業で得た収入は、原則「雑所得」でOK

 ――確定申告は税務署に所得を申告しますが、所得には種類があり「事業所得」や「雑所得」などがあります。副業で得た収入はどんな所得に該当するのでしょうか。

 「企業に勤めているなら原則的には雑所得と考えて大丈夫です。『原則』としたのは、会社員をしながら税理士や弁護士など『士業』の副業をしたり、事業の継続・反復性が高かったりした場合は事業所得になり得ます。ただ、副業で事業所得に該当するケースはごく少数ですから雑所得と考えてください」

ポイント
確定申告をする際は、企業に勤めているのであれば基本的には雑所得になる
ただし、会社員をしながら税理士や弁護士などの「士業」などの副業は事業所得になる

光熱費、副業で使った時間は経費になる

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――確定申告が必要な人は「所得が年間で20万円を超えた人」です。会社員の方が混同しがちな所得税法の用語に「所得」と「収入」があります。所得=収入-経費なので、何が経費として認められるのか理解しておくことで、所得は少なくなり納める税金を減らすことができます。経費にできるもの、できないものの線引きは何でしょうか。

「経費の説明の前にお伝えしたいのが、雑所得が20万円以下だと所得税の確定申告は不要なのですが、住民税の申告は必要です。居住する自治体に所得を申告してください。

次に経費の説明をします。副業している会社に行くための交通費や宿泊費、打ち合わせの飲食代は経費になるので、領収書をとっておきましょう。車を持っている人は、副業に使った分の駐車場代やガソリン代は経費になります。車の場合、変動費は経費に入れやすいのですが車検代などの固定費は難しいです。

携帯での通信料は、まず通話履歴をとりましょう。1カ月のうちで副業に使った通話時間を計算します。あらかじめ私用と業務用で使う割合を決めておく『按分』という考え方もありますが、副業をする人の場合、月によって副業先と通話する時間が違うことが考えられるので、1カ月ごとに使った分だけ経費にするのがお勧めです。ただし、携帯電話の基本料金は保守的に考え、経費に入れることはできません」

――副業の場合、自宅で業務をするケースが多いと思います。電気代、ガス代といった光熱費も経費に入れることができますか?

「これは前述の『按分』で計算します。プライベートと業務に使う割合を決めて床暖房のガス代や、電気代などを分ける考え方です。ただし、最近はリモートワークの手当を支給する会社も増えています。本業の会社から手当が出ている場合は、経費に入れることは難しいと考えてください」

ポイント
雑所得が20万円以下だと確定申告は不要だが、住民税の申告は必要。
副業している会社に行くための交通費や宿泊費、打ち合わせの飲食代は経費になる。
副業に使った分の駐車場代やガソリン代も経費になる。
携帯電話の基本料金は保守的に考え、経費に入れることはできない。

寒冷地への出張、ダウンジャケットは経費になる?

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――副業をするためにパソコンを買った場合も全て経費にできるのですか。

「10万円未満のものは一括で経費にできますが、10万円以上になると『資産』扱いになるため、耐用年数により1年分の原価償却費を経費として計上できます。

 さらに20万円未満は『一括償却資産』として3年で均等償却の方法を、30万円以下の場合は特例措置(青色申告承認)によって全額償却の方法を選べます。30万円以下の全額償却は節税効果が大きいですが、事前に青色申告承認申請書の提出が必要です」

 ――意外と経費に入れることができるものが多いのですね。

副業のために使ったということを説明できるものならば、基本的には経費に入れて大丈夫ですよ。例えば、副業先の場所によっては経費に『衣装代』も入れることができます。

 例えば、東京に住む人が長野県の企業で副業を始め、定期的に長野に通ったとします。冬に着るダウンジャケットやブーツなど防寒着を買えば、それは経費になります。国税庁はホームページで、副業にかかる雑所得の計算方法を説明しているので参考にしてください」

ポイント
副業のために使ったということを説明できるものならば、基本的には経費に入れられる。
副業先の場所によっては経費に『衣装代』も入れることができる。

 副業収入を会社に知られたくない人は、自分で住民税納付を

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 ――会社が副業を認めていて、許可をとっているとはいえ「副業の収入金額を会社に知られたくない」と思う人も少なくないと思います。

「その場合は副業の収入に対する住民税の支払い方法を『給与から差し引き(特別徴収)』するのではなく、『自分で納付(普通徴収)』する方法もあります。確定申告書には『住民税・事業税に関する事項』という項目があるので、『自分で納付』という項目を選んでください。

 少し詳しく説明すると、自分が住む自治体に納める住民税はその年の所得によって決まります。会社員の場合、住民税は会社の給与から引かれています。副業をしている会社員の場合は、本業と副業の所得を合わせた金額を基に住民税が決められます。

このうち副業で得た所得の住民税は自分で納付することにすれば会社に副業で得た収入は知られることはありません。意外と知られていませんので、ぜひ覚えておいてください」 


申請はスマホやPCでできるe-Taxが便利

 確定申告をする意味や経費についてはよくわかりました。次は確定申告の方法についてみていきましょう。

 国は電子申請(e-Tax)を推奨しています。e-Taxにすると税務署に行かなくてもスマートフォンや自宅のパソコンから申告できるので便利です。ここではe-Taxを前提にして手順を説明します。

 e-Taxの場合は、①マイナンバーカード方式、②ID・パスワード方式があります。

 ①マイナンバーカード方式

マイナンバーカードは居住する自治体にカード発行の申請をします。自治体によって異なりますが交付まで3、4週間かかるので早めに申請しましょう。パソコンで確定申告する場合は、カードを読み取るICカードリーダーライタが必要です。家電量販店などで2000~3000円程度で買うことができます。

②ID・パスワード方式 

ID・パスワード方式は税務署で発行の手続きをとります。これはマイナンバーカードが普及するまでの暫定的なものです。マイナンバーカードの取得が間に合わないという人は、税務署に「e-Taxの開始届け出書」を提出して、ID・パスワードを発行してもらいましょう。

 確定申告には①  、②いずれかに加え、本業の会社から受け取った年末調整済みの源泉徴収票と、自身の副業に関する雑所得をまとめた資料を用意しましょう。あとは国税庁がHPで掲載している手順に沿って入力します。

また、副業に係る収入や源泉徴収を記載した「支払調書」の作成は、会社の義務ではないので副業先から送られてこないケースも多いです。自分でしっかり計算しましょう。

 「申告書の作成や申告の方法でわからない場合は、最寄りの税務署で無料の税務相談を受けるのが一番です。自分で申告書を作成して行けば、相談員が書類の見直しや申請も一緒に進めてくれますよ」(菅野税理士)。


無申告は、本業の会社から信頼損なうリスクも

最後に、確定申告の期限に遅れたり、故意に申告をしなかったりした場合、ペナルティーはあるのでしょうか。

 菅野税理士はこう話します。「延滞税や無申告加算税などペナルティーが課されることもあります。何より本業を持っている人が肝に銘じなければならないのは会社の『信用を失う』ということではないでしょうか。税務署から本業の会社に連絡があれば、社内での信用を失ってしまうリスクもあります。そもそも納税は法律で定められた国民の義務です。責任をもって納税しましょう」

【取材協力税理士】菅野浩司(かんの・こうじ)税理士

税務だけではなく、司法書士、行政書士、社会保険労務士、中小企業診断士とタイアップして事業に関する総合的なサポートを行う。

事務所名:KTMG ケーティーエムジー株式会社事務所URL: https://ktm-g.com/wp/about/

投稿者プロフィール

国分瑠衣子
国分瑠衣子
北海道生まれ。北海道新聞社、業界紙の記者を経てライターとして独立。経済・法律メディアを中心に取材、執筆。趣味は日本酒とランニング。激辛料理が大好物。