目次
傾聴(けいちょう)って何?
カウンセリングやコーチングも、「傾聴」が土台
個人やチームの問題を見つけたり、問題の解決に向けて支援したりする方法は色々あります。その代表的な例が「カウンセリング」や「コーチング」ですが、どちらも、その当事者(個人やチーム)が気になっていることや感じていることを「引き出す」ステップをとても重視します。その「引き出す」コミュニケーションの土台となるのが「傾聴」です。
カウンセリングやコーチングだけじゃなく、「傾聴」は普段づかいできる
「傾聴はカウンセリングやコーチングの土台」と言うと、専門的で難しいスキルであるように感じるかもしれませんが、決してそんなことはありません。「傾聴」は、キャリアカウンセラーやビジネスコーチのような専門家でなくても、日ごろから意識することで誰でも身につけることができます。
また、カウンセリングやコーチングのような特定のシチュエーション以外にも、普段の生活や仕事の中で「相手の話に耳を傾ける」場面が少なからずあると思います。「傾聴」は、そのような日常的な対人関係、コミュニケーションの中でも役に立つ、“普段づかい”できるコミュニケーション技法のひとつです。
「傾聴」のやり方(マイクロカウンセリング技法)
では、「傾聴」すると言っても、どのようにやればよいのでしょうか。おそらく色々なメソッドやアプローチが存在するのですが、ここでは1960年代にアメリカの心理学者アレン・アイビイ博士によって体系化された「マイクロカウンセリング技法」を例に、「傾聴」の方法を紹介します。
マイクロカウンセリング技法は、その長い歴史の中で日本を含む諸外国に広まり、
カウンセリングや心理療法の領域にとどまらず、多くの人間関係の場、たとえば企業や学校、福祉施設、病院などあらうゆる場面で人間関係の改善やコミュニケーションの促進に役立つものとして取り入れられています。
マイクロカウンセリング技法(福原眞知子監修・風間書房・2007年)
今日は、そのマイクロカウンセリング技法(上図)から、傾聴の土台となる姿勢や行動、基本的な傾聴の技法を紹介します。あまり聞き慣れない用語もあると思いますので、ざっくりとイメージを掴んでいただくことを目指して、簡単に解説していきます。
かかわり行動(視線、身体言語、声、言語的追跡)
かかわり行動とは、聞き手が、話し手に対して「あなたの話に関心があります」というメッセージを伝えるための姿勢や行動のことです。一見「当たり前のこと」のように思えるので見過ごされがちですが、このあとに出てくる「質問」や「観察」などの技法の「土台」にもなる大切な部分です。
話し手が「自分の話を聴いてもらえている」と感じることができれば、お互いの信頼関係の構築につながっていきます。
視線の合わせ方
相手のほうを見たり、相手の目を見たり。相手に関心を示しつつ、プレッシャーにならないように。どのくらい視線を向けるのが自然で心地よいかは、相手の慣れ親しんだ文化や環境などによっても異なるので注意が必要です。
身体言語
聞き手の表情、体の向きや動きなどが与える印象は、その場の話しやすさ(話しづらさ)に影響します。もし聞き手が眉間にしわを寄せて腕組みをしていたら、話し手は「話すのをやめておこう」と思うかもしれません。
声の調子
話すスピード(速い・遅い)や、声のトーン(高い・低い)も大事です。低い声でぼそぼそ話せば、「気分が良くないのかな?」と心配されるかもしれません。あまりに早口であれば、「忙しいのかな?」と気を遣わせるかもしれません。
言語的追跡
相手が発する言葉に、きちんとついていきましょう。というと当たり前だと思われるかもしれませんが、意外と、相手が話している間「このあと自分は何と言おうか」を考えてしまいがちです。実はこれは「聞いているようで聞いていない」状態です。
開かれた質問、閉ざされた質問
開かれた質問(オープン・クエスチョン)
「いつ~?」「どのように~?」「なぜ~?」などのような(いわゆる5W1Hで始まる)質問や、「そのことについて、もう少し詳しく教えてもらえますか?」といった聞き方をして話を掘り下げようとする質問のことです。
閉ざされた質問(クローズド・クエスチョン)
「はい」や「いいえ」、または短い言葉だけで答えられるような質問です。「普段、運動しますか?」「朝ごはんは食べましたか?」など。テンポよくキャッチボールできる一方で、矢継ぎ早に使うと問い詰めている印象にもなりうるので注意。
クライエント観察技法
「クライエント」というのは、話し手のことです。話している相手をよく観察しましょう。例えば、言葉では「大丈夫です」と発していても、もし目に涙を浮かべていたとしたら、まだ本当の気持ちを引き出せていない可能性があります。
はげまし、いいかえ、要約
はげまし
「うん、うん」「それで?」のような相槌(あいづち)や、「うなずき」などを指します。会話の中でこれらを自然に行えると、相手は(文字通り)語ることをはげまされます。
いいかえ
話し手が語ったことの中からキーワードになりそうな部分を拾って、「それって○○みたいですね」「△△とも言えそうですね」などのように伝え返します。次の「要約」と共に、「こちらが理解している」ことを示す技法です。
要約
会話の締めくくりや、節目になりそうなタイミングで、それまでに語られた情報を要約します。「話してくれてありがとうございます。○○したことについて△△と感じているのですね」などの言葉で、こちらの理解があっているかを確かめる手段としても使えます。
感情の反映
話している本人が自分の気持ち(感情)に気が付いたり、その気持ちを言葉にしたりするのを手伝います。例えば、「○○の話題になると、すごく楽しそうに見えます。ご自身はどう感じますか?」などの言葉をかけるイメージです。
「傾聴」が話し手と聞き手の信頼関係をつくる
ただじっと黙って聞くことが「傾聴」ではない
「傾聴」というと、とにかく「相手の話に耳を傾けること」「よく聴くこと」という意味で捉えている方も多いと思います。それも間違いではありませんが、相手が話している間じっと黙っているだけでは、十分に「聴いている」とは言えません。
表情やあいづちなどによって相手への関心を示し続けたり、相手の表情を観察しながら、「このへんの話、もっと語りたいのかもしれない」と感じたら、そこを掘り下げるような質問をしたり。今回紹介した「マイクロカウンセリング技法」によれば、「聴く」という行為には、より相手に発話(語り)を促す姿勢や行動が含まれていることが分かります。
「傾聴」することによって、話し手が「この人は自分の話を聴いてくれる」「この人になら話してもいいんだ」と感じることができれば、お互いの信頼関係の構築につながっていくでしょう。
問題の「解決」に動きだす前に、「傾聴」で安全な関係をつくる
実は、マイクロカウンセリング技法には続き(紹介しきれていないパート)があります。
「傾聴」によって安心・安全な関係を築き、相手のストーリーを引き出した後は、いよいよ「何が問題なのか」を特定したり、「その問題をどうやって解決するか」を模索したりする段階(=本題)に入っていきます。
その段階では、もし本人(話し手)が自分自身の問題に気付いていないような場合、聞き手のほうから、客観的に感じたことや解釈したことを伝える(フィードバックする)技法など、より積極的なかかわり方が登場します。カウンセリングの本来の目的は、クライエント(話し手)の問題を、本人が自ら解決するのを支援することだからです。
しかし、問題の解決に向けて積極的な動きをとるのは、本人の思考や気持ちが整理されて、行動を変えていく準備が整った後でなければいけません。まずは信頼関係を築き、十分にストーリーを引き出し、問題解決に向けた道を整えていくための最初の作業が、「傾聴」だと言えるでしょう。
—
– 副業プロ人材とチームを組んで自社の課題を解決する –
投稿者プロフィール
- パイオニア→三菱総合研究所→現在はソニーグループで組織開発/人材開発に携わる。シニアマネジャー。2020年~2022年、副業でJOINSに参画。組織を越えて、“個”として働くことに一歩踏みだす皆さんを全力で応援。DDIファシリテーター(コーチング)、キャリアカウンセラー(CDA)、ワークショップデザイナー。
最新の投稿
- 組織運営に関する課題2022.02.28“傾聴(けいちょう)”とは
- 組織運営に関する課題2022.02.21“フィードバック”とは
- 組織運営に関する課題2022.02.14“ホウレンソウ”とは
- 組織運営に関する課題2022.02.07“ジョハリの窓”とは
「あなたに関心がある」「あなたの話が聴きたい」
というサインを送り続ける、話(語り)を引き出す