副業トラブル、なぜ起きる?弁護士が解説する法的背景【前編】

副業やフリーランスとして複数の仕事をする人が増えています。気になるのが報酬や契約を巡るトラブル。どこに相談してよいか分からないという人もいるのではないでしょうか。

国が第二東京弁護士会に委託する「フリーランス・トラブル110番」では、副業やフリーランスからの相談受け付け、和解あっせん手続きまでを無料で行っています。トラブルが起きる背景や、対策を「110番」の事務責任者である山田康成弁護士に聞きました。2回に分けて紹介します。(この記事は今年2月に当社が開いたセミナーをまとめたものです)



副業・フリーランスが直面する4つのトラブル

財政​問題​を​考えて​落ち込んで​悲しい​男 無料ベクター

「フリーランス・トラブル110番」には一日平均15件、1カ月で約300件もの相談が寄せられています。どんな副業トラブルが多いのでしょうか。山田弁護士は、次の4つを挙げます。


副業トラブル相談 多いのはこの4つ

  • ①報酬の不払い、減額
  • ②発注者からの一方的な契約解消
  • ③発注者が個人事業主(副業やフリーランス)からの契約解消の申し出を認めない
  • ④発注者からの損害賠償請求

4つのトラブルが起きる大きな要因が「契約書を交わしていない」という点です。なぜこのようなことが起こるのか、詳しくみていきましょう。




副業・フリーランスは法律上の「労働者」ではない

正義​と​注文​の​アイコ​ン​を​持つ​人々​の​イラスト 無料ベクター

まず企業で働く社員と副業・フリーランスの違いをおさらいしたいと思います。

「副業をする皆さんは、本業の会社でプロ意識を持って働いていると思います。とはいえ(相手先との取り引きなどで)契約の当事者は『会社』です。利益を得るのも会社ですが、責任を負うのも会社です。しかし、副業の場合は個人が、副業先の企業と直接契約を結びます。『契約の当事者』は個人となり、報酬も得ますが、責任も負うことになります。報酬未払いのリスクや、損害賠償請求のリスクを負う場合もあるのです」(山田弁護士)

現状では、副業やフリーランスは「個人事業主」で、労働基準法上の「労働者」ではないとされています。このため労働法は原則適用されず、労災の対象外であったり、労働時間の制限がなかったりと、労働者のような「法による保護・保障」がないのが現状です。国は3月、副業・フリーランスでも実態に即した労働関係法令が適用されるよう求める「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」を公表しましたが、法的保護の確立はまだです。これから副業を始めようという皆さんに知っておいてほしいポイントです。




報酬を減額されないために、必ず契約書を交わす

契約書​に​署名します​。​公式​文書​、​合意​、​取引​の​コミットメント​。​握手する​ビジネスマン​の​漫画​の​キャラクター​。​署名​の​概念図​と​の​法的​契約 無料ベクター

それでは、4つのトラブルが起こる背景と対策を1つずつ見ていきましょう。前編では報酬の不払い、減額トラブルを説明します。

報酬の不払い、減額を巡るトラブルはどのような業種が多いのでしょうか。山田弁護士は「配送業や美容師、エンジニアが目立ちます。納品後に発注先から『成果物の出来栄えに納得できない』などと言われ、最初に提示された報酬は50万円だったのにもかかわらず、30万円に減額されたというエンジニアの方もいます」と話します。

会社員の場合、業務の完成度が低いからといって給料から天引きされるということはまず考えられません。労働基準法24条では「賃金全額払いの原則」が定められていて、企業は、支払日に確定している全額の賃金を支払わなければならいからです。しかし、副業やフリーランスは労働基準法上の労働者ではないとされているため、このような報酬の一部減額が起こってしまっているとみられます。

では、どんな対策をとれば、副業トラブルを防ぐことができるのでしょうか。「報酬を確実に受け取るために、契約書を交わしましょう。口頭でも契約は成立しますし、契約書が法的な成立要件ではありませんが、トラブルになった場合に、契約内容を証明するために契約書は必要です」(山田弁護士)

親しい人からの発注でも『契約書を交わすなんて水臭い』など遠慮してはダメ。最低でもメールやビジネスチャットでのやり取り、見積書、請求書など記録を残しておくことが大切といいます。

労働基準法では、事業主は賃金や労働時間などを記載した労働条件通知書を労働者に明示しなければならないと定めています。しかし、副業やフリーランスの場合は、事業主に労働条件の通知義務は課されていません。このため、つい契約がルーズになってしまう背景があると考えられます。

後々泣き寝入りしないために「必ず契約書を交わす」ということを心に留めておきましょう。




契約書を交わす前に、請負契約と準委任契約の違いを知ろう

意思​決定​の​抽象的​な​概念 無料ベクター

山田弁護士は「トラブルを避けるために、副業では契約書を交わす前に報酬の決め方を明確にしておくことがポイントになります」と指摘します。

フリーランスや副業が結ぶ契約形態には、大きく分けて「請負契約」と「準委任契約」があります。請負、準委任などを総称して「業務委託契約」とまとめられます。

①請負契約

請負契約は成果物について報酬が支払われます。例えば、ライターが原稿を書き、納品したとします。納品した原稿(成果物)に対して報酬が支払われるのが「請負契約」になります。

②準委任契約

準委任契約とは、発注者が成果物ではなく「業務そのもの」を委託するイメージです。成果物の完成の責任は負いません。ただし、成果物の完成責任はないものの、民法上は「善管注意義務」が発生します。これはプロとしての善良なる管理者としての注意義務です。

「請負契約」と「準委任契約」の違いを知った上で、副業先の企業と契約を結ぶ時には、自分がどんな契約を締結するのか確認することが大切と言えます。

JOINSでは、創業から4年間「報酬の支払い方法」について検証してきました。当社の場合は今、時給制をとっています。副業人材が経験やスキルを踏まえ時給単価(上限あり)を決め、面談で企業と話し合います。1カ月間で企業が副業人材に支払う報酬は平均約11万円です

一方で、企業が副業人材の業務内容に満足できないということもゼロではないと想定しています。そこで企業は1カ月の稼働時間の上限を定め、1カ月ごとに契約を解除できるようにしています。

このような仕組みをつくることで、副業人材には「良い仕事をしなければ、契約が打ち切られる」という緊張感が醸成され、適正な時給単価の設定や請求ができ、トラブルが減ることが分かってきました。

企業が副業人材に求める業務は、「勤怠管理のクラウド化」や「ECサイトの改善」など、明確な成果物の定義が難しいケースが多い。そこで、3カ月程度で達成したいゴールを明確に定め、そのゴールに向けて企業と人材がともに業務を進めています。

前編では、副業やフリーランスの位置づけや、どんなトラブルが多いのか、報酬の不払いや減額トラブルが起きない対策を紹介しました。後編では、損害賠償請求のリスクについて紹介します。

投稿者プロフィール

国分瑠衣子
国分瑠衣子
北海道生まれ。北海道新聞社、業界紙の記者を経てライターとして独立。経済・法律メディアを中心に取材、執筆。趣味は日本酒とランニング。激辛料理が大好物。