副業やフリーランスとして複数の仕事を持ち、働く人が増えています。気になるのが報酬や契約を巡るトラブル。国が第二東京弁護士会に委託する「フリーランス・トラブル110番」では、副業やフリーランスからの相談受け付けを弁護士が無料で行っています。トラブルが起きる背景や対策について「110番」の事務責任者である山田康成弁護士に聞きました。
前編 では報酬の不払いや減額のトラブル事例と対策を紹介しました。後編では主に損害賠償請求のリスクについて説明します。(この記事は当社が今年2月に開いた副業のトラブルやリスクの回避策を学ぶセミナーを基に編集しています)
目次
副業・フリーランスが発注先の企業から損害賠償請求されるリスク
副業・フリーランスが直面する4つのトラブルを見ていきましょう。
- ①報酬の不払い、減額
- ②発注者からの一方的な契約解消
- ③発注者が個人事業主(副業やフリーランス)からの契約解消の申し出を認めない
- ④発注者からの損害賠償請求
前編では、報酬の不払いや突然の契約解消トラブルを防ぐ方法や、契約形態についてまとめました。後編は上の表のトラブル④の損害賠償請求のリスクについてみていきます。
「副業やフリーランスは、発注先の企業と対等の立場で業務を進めます。もちろん実態としては発注者がすごく強いということもありますが…。対等な立場で、ミスをしたら損害賠償請求されるというリスクがあります。
ただし『フリーランス・トラブル110番』への相談をみると、単なるおどしのような損害賠償請求が多い。必要以上に恐れることはありません」(山田弁護士)。
ただ、前編でも書きましたが、契約書や覚書の確認は慎重に行いましょう。山田弁護士は「契約を結ぶ際の覚書などに『予告もなく契約終了する場合や、契約期間を破った場合は●●円支払う』という項目が盛り込まれている場合もあります。損害賠償を予告するような項目の内容を注意して確認してください」と話します。
一方で、会社員が業務上ミスを犯した場合、会社側から損害賠償請求されるというケースはあるのでしょうか。「会社側が社員に損害賠償請求するというケースはまれです。副業・フリーランスの過失は労働者よりもゆるく認められます」(山田弁護士)
では損害賠償を請求される具体的なものは何があるのでしょうか。個別にみていきましょう。
- ①不正競争防止法違反
- ②顧客情報の流出
- ③著作権侵害
- ④納品物の瑕疵
1.不正競争防止法違反
山田弁護士が 「副業やフリーランスの人はくれぐれも注意してほしい」と力を込めるのが、不正競争防止法違反です。
不正競争防止法とは、営業の秘密を不正に持ち出したり、利用したりする行為などを禁止し、事業者間の公正な競争を確保するための法律です。民事では損害賠償請求ができるほか、刑事罰も定められています。
最近では、大手回転寿司チェーンの運営会社の社長が、競合する別の寿司チェーンの売り上げなど関する秘密を不正に入手したとして、不正競争防止法違反の疑いで刑事告訴されたニュースが注目を集めました。このほか、大手携帯電話会社の技術職だった元社員が、別の会社に転職した際に「5G」に関する技術情報を不正に持ち出したとして同じく不正競争防止法違反容疑で逮捕されています。
副業のケースで考えられるのが本業や副業先の顧客や営業情報など秘密情報を不正に使用することです。副業先で得た顧客情報を基に、直接営業するといった行為はあってはならないことです。
「不正競争防止法にはあたらなかったとしても不法行為に該当する場合もあり、もめることがあります。法的に違法かどうかはおいていて、人間関係が悪くなると、副業の営業先に年賀状を送るだけでもトラブルに発展する場合もあるので細心の注意を払いましょう」(山田弁護士)
2.顧客情報の流出
2番目は個人情報流出などの情報漏洩です。ニュースなどで見たことがある人も多いかもしれません。「情報漏洩は本人に悪気がなくても起こり得るリスクです。PCやタブレットを紛失することは論外ですが、カフェやコワーキングスペースなど自宅以外の場所で仕事をしている時に、悪意のある第三者にPCを乗っ取られ、情報漏洩するケースもあります。その場合、過失認定されて損害賠償請求されるというリスクがあります」
一般的に請求額は漏洩した数に比例するといいます。顧客に対して送るお詫び状や切手代や印刷費などの積み上げが大きくなります。
ただ、山田弁護士によると、現状では情報漏洩に関連し、個人が損害賠償請求されたと公になっているケースはほとんどないといいます。「裁判になっていないということは、現実的に回収する見込みが低いものを請求しても仕方がないという企業側の考えがあるとみられます」
3.著作権侵害
著作権の侵害はクリエイターやライターに多いケースです。記事を作成する時にインターネット上の記事をそのままコピペして納品したり、サイトの画像を無断使用したりする場合です。「『発注者との契約条項は、著作権侵害の対応は受注者が責任を持って行うこと』と定めている例がほとんどです。トラブルになった時に『発注者のためにやった』と言っても救ってくれません」
このほか、損害賠償請求が考えられる事例として山田弁護士は、納品物の瑕疵や不法行為(交通事故など)を挙げます。
「働き手が過度に恐れる必要はない」
ここまで副業に関連したトラブルを見てきましたが、山田弁護士は「必要以上に恐れることはありません」と呼び掛けます。「私は脱サラして弁護士になりました。自分のスキルで、仕事を受けて報酬をもらい、感謝ももらう。副業やフリーランスはワクワクする仕事なのでぜひ皆さんにチャレンジしてほしい。ただし、自分の身は自分で守らなければならないということを覚えておいてください」。
また、副業・フリーランス向けの保険もあります。一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会では、大手保険会社4社と共同で、副業やフリーランスを対象にした保険加入を受け付けています。年会費1万円で、情報漏洩や納品物の瑕疵などを補償しています。現状では副業は会社員とは異なる立場だということを肝に銘じた上で、自衛策を学ぶことが必要です。
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