地方中小企業の変革業務に、副業・兼業プロ人材の活用が効果的な結果が出てきたのでその要因を考えてみました。

地方中小企業の変革業務に、副業・兼業プロ人材の活用が効果的な結果が出てきたのでその要因を考えてみました。

みなさん、こんにちは。
JOINSの猪尾です。

私が、地方の中小企業にとって大きく役立つことの可能性を信じている大都市の副業・兼業プロ人材(最近はこの呼び方をしています)。

地方の中小企業のどんなことに役に立てるのか、その答えが、最近より鮮明に見えてきた気がしているので今日はそのことについて書いてみたいと思います。ちなみに、私は経営学者ではないので、以下のことは定量的な調査結果などに基づくものではなく、現場で起きていること・自分で感じたことからの考察です。

これまでの地方中小企業と大都市の副業・兼業プロ人材のマッチング状況

まず、今日書いていくことがどの程度の件数のマッチングから見えてきたのかについてご説明していきます。

期間としては、JOINSを2017年6月に創業してから、地方中小企業向けに特化して、大都市の副業・兼業プロ人材のマッチング業務を取り組んできたので、ほぼ丸3年間となります。

その期間での取り組んできた件数としては以下の通りです。最初の2年近くはほぼ長野県だけに営業エリアを絞って事業を展開しており、昨年末から営業エリアを全国に広げたばかりなので、エリアとしては長野県の企業に集中(契約件数の約2/3程度)していますが以下の書いていることは、長野県の企業固有のことではないと感じています。

マッチングの実績

初期に契約した案件では、当社の知見が圧倒的に足りておらず、初期に契約した案件では、なかなか成果に繋がらず、企業・人材の皆様には申し訳ない案件もたくさんありました。

また、私自身、2018年3月から社員30程度の長野県・白馬村のリゾートを運営する八方尾根開発株式会社に個人として週4-8時間、リモートワーク中心に2年超(現在も継続中)ほど、新規事業立ち上げ・運営や現場の集客業務などを手足動かして実行したことで学んだことも大きくありました。

現時点でわかってきたこと

こうした試行錯誤の繰り返しの中から、現時点(今後はさらにアップデートしていきたいと思います。)で分かってきたことは以下です。

地方・中規模企業は、自社の変革業務の特に改善領域、さらに、実行段階の業務で、大都市の副業・兼業プロ人材を活用すると成果を出しやすい。

これから上記がどういうことか、そしてその背景はどこにあるのか、について現時点でわかってきたことを説明していきます。

副業・兼業プロ人材の活用に相性がいいのは地方・中規模企業

まずは、主語となる地方・中規模企業ですが、これは中小企業基本法で定められている分類が今のところしっくりきています。同法律では、主に従業員数で日本の企業を分類しており、大企業は300人以上、中規模企業は製造業で20人以上(サービス業は6人以上)、それ以下が小規模企業と定義されています。

これは、この3年間で大都市の副業・兼業プロ人材の活用に興味を示し、成果も出てきている企業で多かったのがほぼこの中規模企業に分類された結果からこのような考えに至りました。

その背景には、おそらく、大都市の副業・兼業プロ人材の持っているノウハウというのは、大企業での培った経験に基づいており、それは、いわゆる組織的に成果を出すためのノウハウとも言えるため、小規模企業には役立ちにくいのではないかと考えています。

ここで簡単に、特に地方の中規模企業に役に立つことがどの程度インパクトがあることなのか、政府の統計数字を元に整理したいと思います。

地方・中規模企業の日本経済に占める影響力

まずGDP比率で地方はどの程度日本にインパクトがあるのかを示したが一番左の円グラフです。ここでは大都市=東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県・大阪市・名古屋市、それ以外を地方と仮に定義してみました。

GDP比率で見ると地方が実は6割も占めています。(これは、内閣府の2018年の県内総生産というデータを用いています。)

次に日本全国で約360万社あると言われる企業数ですが、そのうち地方は約7割を占めます。さらに、企業の従業員数の比率では地方は52%を占めます。中規模企業は地方経済のうち、約半分をになっていることになります。(これは、中小企業庁の2016年の民間・非1次産業の従業員数というデータを用いています)

私は今では前職から数えて地方の中小企業向けの仕事だけに特化して15年経ちますが、その前までは、東京生まれ・東京育ちで、新卒で入った会社は大手企業しか顧客にいない博報堂という広告代理店だったので、当時は、大都市の企業は数では2割くらいだけど日本経済の8割を稼いでいるパレートの法則の感覚でいました。(意外とこの感覚の方は多いのではないかと思います。)

でも、事実が示すことは、日本は地方が6割を稼いでいて、特に地方の中規模企業で働く人がメインで頑張ってくれているということなのではないかと思っています。

従って、地方・中規模企業に役に立つことは日本にとってのインパクトも大きいと捉えています。

地方・中規模企業に存在する変革業務のニーズ

まず変革業務が何を指しているかから説明していきます。

よくある重要度と緊急度のマトリクスで整理するとすると左上に該当する、今、売上を稼いでいる通常業務以外の業務です。

変革業務の特性

地方中規模企業の経営者の方々にとって、デジタルトランスフォーメーションやインバウンドなどのグローバル化、そして、人口減少など、そして、今回のコロナなどの影響によって外部環境が大きく変化している中で、日々の売上を稼ぐ通常業務のやり方を変えたり、新たな業務を考えるなどの左上の業務のニーズがものすごく高まっていることを感じます。

変革業務の中でもニーズが高いのは「改善」

ただ、変革と言っても、いわゆる、apple社がiPhoneを生み出して世界を変えるようなことから、タイムカードをデジタルに変えたことで手作業が減らし効率化することまで範囲が広い。

実際に、地方の中規模企業のみなさんのニーズに基づいてマッチングして成果が出始めている業務、その現場で起きていることをどう整理すれば良いか考えていて、スッと私が腹に落ちたのは、元マッキンゼーの伊賀泰代さんが書かれた「生産性」という本で書かれていたこの図でした。

変革業務の4つの分類

伊賀泰代さんの指摘では、生産性をあげるには改善・革新と分子拡大・分母削減の2×2の4パターンあるよというものでした。また、改善とは3%、革新とは30%程度の変化のインパクトを出すものという説明でした。

この枠組みに当てはめると、地方の中規模企業にとって圧倒的にニーズがあるのは、改善の方だということがわかってきました。

ECを強化したい、テレワークを社内に導入して従業員を働きやすくしたい、ITツールを導入して手作業の業務を自動化したい。

こういう業務へのニーズが多く、これらは上記の改善に該当します。

大都市の大企業やスタートアップの変革の主戦場は右の2つな気がしますが、地方の場合は、左でもまだ変革でいる余白があり、伸び代がたくさんある。そういう感覚を受けています。

改善業務の中でもニーズ高いのは「実行」

さらにこの変革でも段階別に分解していくと、実行段階のニーズが大きいことがわかってきました。

変革(改善)業務の段階

上記の例のように、もうやることは決まっていて、その選定から契約、マニュアル作り、社内向け説明など、最後の部分を、手足を動かして愚直に実行してくれることに圧倒的なニーズがあることがわかってきました。

なぜか。

おそらく、以下の2つの時代の変化が影響していると感じています。

一つは情報社会でアイデアの価値が下がったことです。

計画の元となるようなアイデアは、WebメディアやSNSなどを通じて、メディアが報じる情報や場合によって本人へメッセージで聞くことなど質の高い情報をほぼ無料で手に入れることができます。

現在、地方・中規模企業では、高齢化した経営者からの世代交代も多く起こっており、30-50代の経営者の方は珍しくない。その世代は、大学進学や新卒就職で大都市にいたことも多く、インターネットのリテラシーでも大都市の人たちとの差はなく、以前はあったかもしれない、大都市と地方のアイデアに対する情報格差はほぼなくなってきているんだと思います。

さらに、変革業務のうち、革新(イノベーション)の領域は、仮説検証のプロセスのことが多いので、最前線のコミュニティにいないと手に入らない情報もあり、おそらく大都市の方が有利です。一方で、改善(インプルーブメント)の領域は、すでにやり尽くされていることも多く、やれば成果が出ると実証されていることも多いのでなおさらアイデア・計画の質に差がなくなっている変化が起きていると感じます。

そして、もう一つの変化は日本が1995年をピークに労働人口が減少に転じたことだと思います。

足りない人材は雇えばいつでも雇えた時代は、「実行」より「計画」方が大事だった。いい「計画」があれば、お金も借りれて、人も雇えるので「実行」もできる。

でも今はいくらいい「計画」があっても、地方は特に人が雇えないので、それを誰がやるんですか?という状態になる。

従って、すでにやるべきことはいくつかは社内でも見えていて、それをやれる人がいない状態というのが、地方・中規模企業の実態なので、この「実行」段階にニーズがあるということなんだと感じています。

実行段階の業務の特徴

私自身、先ほどの述べた長野の中規模企業でまさにこの改善の実行段階の業務をしてきてわかったことがありました。それが以下の3つの特徴です。

変革(改善)業務の実行段階の特徴

一つ目は、例えばチャットやWeb会議、顧客管理ツールなどのITツール一つを社内に導入するに当たって、ちょっとでも違う業界でも良いので、自分自身が手足動かして実行したことのある経験があるかないかが大きな差になるということです。やってみれば大したこと全然ないのですが、やったことないので難しそうに見えてしまう。

二つ目は、いざ実行となると、その企業の中に入りこんで、一員の感覚(ただ契約が雇用契約でなくて業務委託契約で毎日会社にいないだけ)で、関連する部署の現場の方とやりとりしながら、対応する業務が発生します。

私は個人の立場で契約して、白馬村もこの企業も大好きで、その現場の人とのやりとり一つ一つが信頼関係につながり、会社や地域の一員と認められるための大事なプロセスと感じ、すごく楽しめました。

三つ目は、改善の業務は一つ一つずつのミッションはそんなに業務の粒はお大きくありません。クラウドメールツールを導入したい、勤怠管理ツールを導入したい、ECのコンバージョン率を改善したい、など1ヶ月から6ヶ月程度で終わることも多い業務です。

担い手が不足していた改善業務の「実行」

では、改善業務自体は昔からあったわけですし、これまであった選択肢ごとに、上記の業務の特徴別に比較してみました。

先に述べたとおり、地方は特に労働人口が減少していて原則、慢性的な人手不足状態で、通常業務で手一杯なことが多いので、改善業務を担える人材となると、新たな人を考えたい。

そうなると、実際に当社を利用する経営者さんに伺うと選択肢は、社員採用/パート・アルバイト(派遣)/他社(コンサル等)への委託の3つです。

まず正社員の採用となると、こうした経験値のある人材は地方ではなかなか採用が難しい。(給料が合わなかったり、移住がハードルになったり)かつ、改善業務は短期であることを考えるとそのためだけに採用は躊躇する。

次に、パート/アルバイトであれば、短期の部分はクリアできるけれど、そもそもそういう経験値がある人材が少ない。

そうなると有力な候補は他社への業務委託だったと思うのですが、当社がこの間にお手伝いしてきた企業の経営者の方からよく聞くのはこういう声です。

「コンサルは宿題を置いて帰る。ただ、結局それをやれる人がいない。」

なぜ、そうなるのか。

私は、たまたまそのコンサルの担当者などの問題ではなく、構造的な問題だっと思います。

それが上記にあげた、実行業務に特有の内部に入りこみ属人的対応の必要な業務は通常は受託する企業としては一般的には「手離れ」が悪く、通常は「計画」段階のアドバイスや提案までに留めないと儲かりにくいことが原因にあると思います。

上記のことを整理し、副業・兼業プロ人材の特徴とも比較したものが以下のとおりです。

変革(改善)業務の担い手の選択肢の比較

この図のとおり、既存の選択肢では、なかなか対応できる方法がなかったのが現状で、それを解決できる可能性が出てきたのは、2018年1月の副業解禁以降、急速に人材市場に供給が増えた「大都市の副業・兼業プロ人材」ということが言えるのではないかと思います。

まず、当社でマッチングをお手伝いしている副業・兼業プロ人材の平均的な働き方をご説明します。

週8時間程度・原則リモートワーク・時給制(時給は平均3-4,000円程度)なので、企業が人材に支払う報酬は平均10万円前後となります。

人材側は、30-50代(平均は約48歳)の大手企業に現在も勤めている副業の方が約2/3を占め、元大手企業などにお勤めで現在は早期退職して独立されている兼業になります。

企業とは1ヶ月単位で解約できる業務委託契約(準委任契約形態)を締結して、小さい業務を一つ一つ実行しながら、お互いで契約を更新していく方式をとっています。その結果として現在の契約後の平均継続期間は、約8ヶ月間となっています。

ではなぜ、同じ業務委託契約の受託にあたるのに、企業として受けると儲からず、副業・兼業プロ人材なら問題ないのか。その背景には、副業・兼業プロ人材がもつ2つの特徴にあると思います。

一つ目は、個人であるため、事務所代や間接経費など最低限稼がないといけない固定費が少ないこと。

二つ目は、こうした企業向けの業務が専業でなく、勤めている大手企業からの報酬などがあることから、稼がないといけない売上金額が少なくて済むこと。

これによって、コンサルなどを行う法人企業と異なり、1社あたり副業・兼業プロ人材としては10万円程度/月でも採算が合い、何社もやって横展開する必要もないので、属人的な業務にもどっぷり入りこんでも問題ない。

そして、2018年1月の副業解禁前まではこうした特性をもつ人材は、人材市場はほとんどいなかったことが、それが副業解禁後、段階的に、このような人材供給が増えてきているのが現在の状態ということになると思います。

先月発表されたランサーズ 社のフリーランス実態調査2020年版によると、このような人材が約750万人(調査結果の副業系すきまワーカー、複業系パラレルワーカー、自由業系フリーワーカーの合計数値)という調査結果も出ています。

ぜひ、地方・中規模企業の皆様にはこのような人材をぜひ活かして、自社への変革、改善業務にぜひ活用してもらいたいです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

投稿者プロフィール

国分瑠衣子
国分瑠衣子
北海道生まれ。北海道新聞社、業界紙の記者を経てライターとして独立。経済・法律メディアを中心に取材、執筆。趣味は日本酒とランニング。激辛料理が大好物。