地方の中小企業が副業人材を活用する時の大切な五つの仮説

地方の中小企業が副業人材を活用する時の大切な五つの仮説

みなさん、こんにちは。
この記事にたどり着いていただき、ありがとうございます。
猪尾愛隆と申します。JOINSという大都市と地方の人材シェアリングサービスの会社を運営しています。

このマガジンを始めようと思って半年以上経過してしまったのですが、やっと準備が整ってきたのでまずはこの記事からお届けしていきたいと思います。

地方の中小企業の皆様に、大都市の特に大企業に勤める40-50代のミドル人材を副業・兼業という形でマッチングを2017年6月から始めてから2年半が経過しました。この2年間はどのようにマッチングすることが企業側の成果に繋がるのかということの学習に力を入れてきました。

この間、約100社の企業の話を伺い、実際に25件のマッチングの成約をお手伝いさせていただきました。そして、企業が人材と業務委託契約を締結して、業務を始め、成果が出て2年近く契約がそのまま続いている案件もあれば、当初の想定と異なり、数ヶ月で契約が終了してしまう案件もありました。

どうしたら、地方の中小企業が大都市の副業・兼業の人材を活用して、いい仕事ができるのか、ということを実際の現場で一緒に私も状況を見て、聞いて、感じて、考えてきた中で、少しずつ分かってきたことがありました。それをやっと昨年後半くらいから言語化できるようになってきたので、今日はそのことを書かせていただきたいと思っています。

今後もこの五つの仮説を検証しながらさらにアップデートしていくと思いますが、現時点で大切だなと分かってきたことは次のようなことでした。

それぞれまずは簡単に紹介していきます。

1.地域の企業側の経営者や担当者と、都市部の副業・兼業の人材が、お互い対等な個として向き合う時間をとってから仕事を始める。

受け入れる企業側には「東京の大企業に勤めるすごい人が来るので『お手並み拝見』」という過度な期待や、「ちゃんとうちみたいな田舎の小さな企業の仕事でも、同じ目線で寄り添って仕事してくれるか」という不安がありました。他方、人材側には「先方の期待があるので早く成果を出さないと」という焦りや、「企業に受け入れられないのでは」という恐れも。両者の思いが入り乱れ、いくら業務内容とスキル・経験が合っていても、いい仕事につながらないケースがありました。

その状況を実際に目の当たりにして、双方によく話を聞き、感じて、大切だと思うようになったのがこのことです。

現在、JOINSでは、この「お互い対等な個として向き合う時間」を作るために、「心理的安全性プログラム」と名付けたプログラムを、企業の担当者と人材に契約をして業務を始める前に行ってもらっています。本プログラムについてはまた改めて詳しくご紹介していきます。

心理的安全性プログラム

2.緊急度は低いが、重要度は高い業務から始める。

フルタイム・オフィス常駐の正社員などの人材ではなく、パートタイム・リモートワークの人材を雇う場合は、どのような業務を切り出して依頼するのかがポイントという話は話題に上がることがあると思うのですが、その切り出し方の軸として本項目以降(2~5)のことがあると思っています。

JOINSでマッチングする際に人材の平均的な働き方として見えてきたのは「スキマ時間で週8時間・月32時間程度、原則リモートワーク、現地訪問は1回/月」という働き方です。
2~5の項目は特に、こうした働き方で副業・兼業することを希望する人材と、中小企業が良い仕事をするために、最初に大事になることだと感じています。

この2は、よく業務を分類する際に使う「重要度」「緊急度」のマトリクスで整理した場合の話で、都市部の副業・兼業の人材が「得意なこと」「できること」、地域の企業が「必要なこと」が重なる領域がここなのではないかと分かってきました。

緊急度は低いが重要度は高い業務

今日明日に必要な緊急度が高い、今日明日の納品や今月の予算達成などの業務は、業務密度が必要なので、スキマ時間の週8時間では対応できません。

一方で、左上の重要度が高いけど緊急度が低い業務は、不確実性も高いのでフルタイムで社員として雇用するには重く、ピンポイントに経験値やノウハウがある人の方が適していることがわかってきました。

この左上の領域の業務に対して、多少になりとも時間やお金を投下していくことに関心が高い経営者の企業が、都市部の副業・兼業の人材と相性がいいということになります。

3.PLANではなく、DOの業務、具体的な業務の実行から始める。

ここでの「PLAN」の業務とは、課題を見つけて解決策を考えてもらい、それを提案してもらうなどの業務であり、「DO」の業務とは、既に経営者や社内で上がっている「これをやれば改善するのではないか」とイメージされている具体的なことを実行する業務のことを指しています。後者の方が圧倒的に成果が出やすいことが分かってきました。

なぜか。

特にJOINSで実践して案件でも最初の方はこの仮説がなかったので、実は「PLAN」を依頼する案件に対応した結果、その多くが成果に繋がりにくいとう結果が出ました。また、私自身も約2年、長野県の企業で兼業を行ってきた結果、大きく2つの要因がわかってきました。

1つは、「PLAN」を依頼して質の高い解決策が提案されても、その「PLAN」が実行する人や時間がないことがほとんどなので、その実行には至らないのです。実行されないことには、その提案書も価値を生みません。

2つは、実は、大企業と中小企業、大都市と地方の間の「PLAN」の質の差は、地方中小企業が求めている解決策においては、大きな差がないがないということも大きな学びでした。もはや、情報自体は民主化されて久しいので、質の高い解決策の情報は無料で手に入るようになってきたことが大きいです。よって、かなり高いレベルで経営者の頭の中だったり、現場で必死に頑張る社員のみなさんが、もっとこうしたらうまくいくのに、という解決策はすでにあることが多い。不足しているのは、解決策を考えてくれる人ではなく、それを代わりに実行してくれる人なのです。

4.特に小さいなDOから始めて、小さな成功で居場所を作りながら一緒に次の業務を考えていく。

例えば、実際にお手伝いさせていただいた案件で実際にあったのは、「今使っているEメールのシステムが古いので新しいものに変える」という業務でした。この業務では、大手IT企業の40代のシステムエンジニアの方が副業で対応しました。既存のシステムを解約し、グーグル社の「G Suite」とマイクロソフト社の「Office365」などを比較調査してグーグル社の「G Suite」を社内に提案し、決裁を取り、グーグル社との契約窓口となって、契約から社内インストール、マニュアル作成、社員への説明などを約2ヶ月で行いました。

こうした小さい業務からスタートできるのは、副業・兼業の人材の良さです。2ヶ月で終わるかもしれない業務しか見えていないのに、これまでフルタイムの人材を採用することはできません。また、このような導入業務など個々の企業の属人性が高く、人力対応でしかできないので効率性が悪いため、メーカー側も対応してくれず自社で対応するしかありません。

ですが、結果的にはこのメールシステム入れ替えでは業務は終わりませんでした。この方と一緒に「どの業務をデジタル化していくのか」ということを相談して、紙のタイムカードで勤怠管理していた業務をクラウド上で行う改善業務に取り掛かるなど、次から次へと業務が繋がり、1年以上、業務は続いています。

5.迷ったら、攻めの業務よりも守りの業務から始めてみる。

「攻め」は新たに売上を上げるための業務で商品開発・営業など、「守り」は費用を抑えたり生産性を高めたりするための業務で、いわゆる管理系業務(システム・人事・経理・財務・経営企画など)をイメージしています。

「攻め」でも最初からうまくいくケースはあるのですが、両方ともニーズあって、どっちから始めたいか迷ったら、「守り」からをお勧めしています。

「守り」の方が大企業と中小企業の間でも知識やスキルの汎用性が高く、短期的に成果を出しやすいということがわかってきたからです。また、こういう「守り」の人材を増やすことで、すでに社内で「攻め」を担ってきた人材(社長自身や部長など)のリソースを空ける方が「攻め」の成果を出しやすいパターンもあることがわかってきました。

今後、それぞれの仮説についてもう少し詳しくご説明していきます。ここまでお読みいただき、ありがとうございました。