会社の人事評価制度、どうしていますか?制度自体はあるものの運用できていなかったり、制度が現場の実態に合わないものになったりしていないでしょうか。今回は兼業人材と一緒に人事評価制度を構築した、香川県高松市の三栄ブロイラー販売株式会社の取り組みを紹介します。
- 人事評価制度とは?
- 人事評価の主要3項目
- 経営者が評価制度で実現したいことトップ3
- 三栄ブロイラー販売の事例
- 「脱・思いつき人事へ」事業承継を見据え決断
- 兼業人材・大崎さんが変えた5つのポイント
- 現場からの疑問の声には繰り返し説明
目次
人事評価制度とは
人事評価制度とは、社員の能力や実績、意欲、会社への貢献度などを評価し、今後の業務や賃金を決める制度です。会社側にとっては、ビジョンや課題を明確にし、人材育成するといった大事な側面があります。一方で、多くの企業が人事評価制度を取り入れていますが、会社に合った制度の整備や運用は簡単ではありません。
人事評価制度の主な項目は3つあります
①能力評価
業務で求められるスキルで社員を評価します。企業ごとに定めた項目を基に評価するのが一般的です。
②業績評価
会社の売り上げなどの業績にどのぐらい貢献したかを測ります。個人やグループ、事業部単位で出した成果を、期間ごとに評価します。
③情意評価
個人の業務への意欲や、勤務態度などから評価します。
人事評価制度の種類は、360度評価(多面評価)、目標管理制度(MBO)、コンピテンシー評価、OKRなど多くの種類があります。
経営者が人事評価制度で実現したいこと
人事評価制度サービスのあしたのチームが全国の中小企業の経営者や従業員約300人に対して行った調査によると、経営者が人事評価制度で実現したいことのトップ3は「正当な評価」「給与決定基準の明確化」「昇格・降格の基準の明確化」の3つです。一方で、評価制度の見直しをする頻度は年1回より少ないという回答が47.0%と約半数を占め、10年以上前という回答も24%ありました。
「脱・思いつき人事へ」事業承継を見据え決断
兼業人材と人事評価制度を変えた企業の事例を紹介します。
香川県高松市の三栄ブロイラー販売は創業58年。四万十鶏、奥丹波どりなど銘柄鶏をスーパーや飲食店などに卸しています。従業員数は約230人。人事評価制度は以前からあったものの、運用はできていませんでした。
佐賀県在住の兼業人材と契約
三島義之会長は 「正直に言って、これまでは場当たり的な『思いつき人事』の面もありました」 と話します。社歴を見て、大まかなタイミングで「そろそろ部長に」などと管理職の昇格の時期を決めていたといいます。
娘婿への事業承継が視野に入ってきた時、三島会長は人事評価制度の構築を考え始めます。「社長の間は目の前の仕入れや営業、業績を追い掛けることが多くなり、どうしても総務の部分は後回しになってしまう。次の時代や100年続く会社を考えた時に制度を整えることが必要だ」という考えがありました。
また、業績に関わらず社員の給与を上げたいという思いも。業績が好調な時だけ昇給し、悪い時は上がらないという状態を脱却し、中長期的な人材育成をしたいと考えたのです。
同社はJOINSのマッチングシステムを使い、中小企業の人事評価制度の構築を手掛ける佐賀県在住の兼業人材・大崎節男さんと契約を結びます。
兼業人材・大崎さんが変えた5つのポイント
大崎さんは大手電機メーカーで長く人事畑を歩んできました。現在は独立し、中小企業診断士や社会保険労務士として複数の企業と契約を結んでいます。
会社によっては親会社や、大企業の制度を取り入れるケースもありますが 「人事評価制度は同じものは2つとない。自社に合うものを作り込まなければうまく運用できません」 と言います。
大崎さんはまず、三栄ブロイラー販売の会社としての考え方をヒアリングしました。同社はオリジナルの人事評価制度はありました。大崎さんは、管理職に評価制度が浸透していないなどの課題を洗い出した上で、オリジナルの制度をブラッシュアップします。
会社の制度は、役職ごとに設定した「基本スキル」で評価を実施していました。大崎さんは「評価の達成度合いが恣意的になってしまうのでは」と考え、下記の5つの変更を加えました。
上記の5つのポイントを詳しく説明します。
等級ごとに評価のウエートを変える
大崎さんは、等級ごとに目標管理、行動評価のウエートを変えました。等級が高いほど目標管理のウエートを高くします。また、等級が高いほど業績を重視しました。
「職能評価基準」で将来を「見える化」
等級ごとに昇格に必要な基準を示した「職能資格基準」をつくり、将来を見える化しました。従業員にとって昇格の基準を明確にすることで、●●に達すると、●●に昇格することができる、というモチベーションの強化につなげたのです。
大崎さんは「何を満たせば次に行けるのかをはっきりと社員に見せ、地道な努力を促し、育成・教育につなげるためのものです。評価を通して分かった弱みを強みに変えることもできます」と説明します。
現場からの疑問の声には繰り返し説明
評価制度の対象はまずは主任以上(対象者は約30人)で運用することに決め、昇給や賞与の配分を作成、規定も修正しました。大崎さんがマニュアルを作成、運用に移行する時は三栄ブロイラーの京都府福知山市と高知県の2カ所の工場を回り、直接管理職に説明しました。大崎さんは「三栄ブロイラー販売の『人事部長』のような気持ちで仕事をしてきました」と話します。
業務報告の提出タイミングも変更
大崎さんが作った評価制度と並行し、三島会長は業務報告の提出タイミングも変更します。人事評価のタイミングは半年に1回ですが、これまでは評価直前の報告書をベースに評価をしていました。しかし、これでは総合的な判断が難しいため、週次の報告書を基に上司と部下が面談をすることも決めました。
外部の人材が評価制度をつくることに対して、社内から抵抗や不安の声はなかったのでしょうか。プロとして専門知識がある大崎さんが、制度を再構築することへの不安の声は出ませんでした。
一方で、新しい制度を説明した時に役員からは「なぜ制度を変えるのか」という疑問の声はありました。 意見が割れる中で大崎さんは役員に対し定期的な説明を複数回行い、制度運用の道筋をつけていきます。三島会長は「説明を繰り返し、人材育成につながるなどのメリットを伝えてもらった」と話します。兼業人材への報酬は月額15万円
三栄ブロイラー販売が大崎さんへ支払った報酬は、交通費を含めて月額15万円ほどです。「プロとして専門知識があり、指示するだけで終わらず、資料作成から現場での説明までを行ってくれた点がコンサルタントとは大きく違いました」(三島会長)
今回の三栄ブロイラー販売のような「自社に人事評価制度はあるものの、運用はできていない」というケースは少なくありません。今回は外部のプロフェッショナルに依頼し、自社に合った制度を構築できたケースと言えます。同社は「兼業人材に作ってもらった制度を運用しながらブラッシュアップしていきたい」と話しています。
投稿者プロフィール
最新の投稿
- 業務効率化の課題2022.02.16ペーパーレス化で年100時間の業務時間を削減 製造業の秘策とは
- 人材採用・活用に関する課題2022.02.04「地元に良い人材がいない!」と嘆いていた経営者が気づいた、いらぬ”こだわり”
- 業務効率化の課題2021.10.04中小企業の会計ソフト選び 導入事例も紹介
- その他2021.09.27副業やフリーランスにも影響 迫る「インボイス」って何?